▼第3話はこちらです
「今なら間に合う、絶対にやめるんじゃねぇぞかぁ~」
布団に入りながら何回もこの言葉がよみがえってきた
間に合うってなにさ
何か急いでいるのか?
そういえば、転校してきてから2ヶ月くらい経つけど、筋田君のことはほとんどしらない
前の学校ではどんな生活をおくってきたのか
兄弟はいるのか
家はどこなのか
なぜ、僕にここまでして勧めるのだろう
今までの人生、考えることは得意としてきたけれど、人の考えまでは分からなかった
よくよくかんがえればそれは当たり前だということにすぐ気付いた
与えられたことしかやってこなかったし、そこまで他人にも興味がなかった
ただ、周りの人が僕がちょっとできるからって寄ってきてるだけ
考えれば考えるほど、彷徨い続けそうなので明日訊いてみることにしよう
気づけばもう3時をまわっていた
あまり寝てないというのに、快調に目覚めがよかった
昨日の筋田君の試合の歓声や熱気が身体に残っていて、まだ少し興奮しているような気がした
いつものように牛丼を頬張り、リステリンでうがいをし学校に向かった
教室のドアを開けると、筋田君が待ってましたという笑顔で
「おう! 夏目! おはよう」
と、明るく挨拶をしてきた
僕も挨拶を返そうと思っていたら
「で、やることに決めた?」
キラキラしたまなざしで僕の顔をみつめている
「昨日の試合はとても素晴らしかったし、なんだかカッコよかった。あ~いうのもいいかもね」
筋田君の前ではまだ完全に認めることは出来なかった
「じゃ、いいじゃん、いいじゃん、はじめちゃおうぜ!」
「でも多分うちの親がだめっていいそうなんだよね、うちの親さ、こういうの全く興味ないし、勉強勉強しかいわないからさ」
「親のいうことなんて関係ねぇよ! もう大人じゃん」
「まぁそうなんだけどさ、結局月謝だすのって親だからさ」
黙って考え込む、筋田。こればかりは勢いで解決できる問題だと思わなかったのだろう
「話してみるだけ話してみたら。絶対やったほういいって! マジで楽しいよ!」
ここで昨日言われた疑問が頭によぎった
「今ならまだ間に合う、絶対にやめるんじゃねぇぞ! っていってたじゃん、あの今ならまだ間に合うってなんか急ぎとかあったりするの?」
「そんなこと言ったっけ?」
「言われた時はなんとも思わなかったけど、後になってなんか引っかかったからさ」
「なんでもないって、気にしすぎ、意外とちっちゃいこと気にすんだな」
笑いながら筋田の大きい腕が首に巻き付いてきた
「試しに格闘技みせてやろうか」と言われそうな雰囲気がしたので僕はとっさに話題を変えた
「そういえばさ、僕の番号なんで知ってたの?」
「あぁ~あれな最 介偉から教えてもらったよ」
介偉がしゃべったのか、いっつもクラスで最下位のクセしてこんなところでも頭わるいのかよ
分からないところ訊いてきても教えるのやめようかな
「だからって介偉を恨んだりするなよ!」
突然言われたのでビックリした顔を向けると
「夏目って顔にでやすいもんな」
「ほっといてくれよ」
「まぁ~家帰ったら親に訊いてみてよ」
「多分、ダメだって言われそう......」
「そんなビビってどうすんだよ! ただ訊くだけだぜ! 別に倒してこいなんていってるわけじゃないんだから」
なんだか筋田には余裕がある、これも筋トレしている所為なのかなと自分の中で羨ましいと思う気持ちがだんだんと大きくなっていった
会話を終えると、筋田はいつもつるんでいるいわゆるイケてるグループの方に向かっていった
「なんであんなガリベン野郎とつるんでるんだよ~」と聞こえてきたが僕は、何も言い返すことができなかった
ちょっと前までは勉強集団が約3割
ただ時が流れるままに生きている集団が2割、筋田を中心にふざけあっているグループが5割
今では勉強集団は2割でそこまで減っていないが、ただ生きているグループは消滅し筋田グループに加わっては笑顔で楽しそうに過ごしている
日に日に筋田の影響力はクラスを包み込んできているが、宿題をやってこなかった時や授業中あてられた時だけみんな僕を頼る
ほんとうの僕は誰かに必要とされているのではなく、その場しのぎで頼られていることが分かってきた
僕が人気だったわけではなく、みんな自分を守るために僕を頼っていたんだ
なんだかそれもむなしいものだな
今まで僕の周りに集まっていた人たちはほとんど笑顔をみせなかったっていうのに筋田君の前では本当に楽しそうにしている
今まで自分が正しいと思っていたことは本当に正しかったのだろうか
ただみんな遊ぶのが好きで怠けているだけなのだろうか
それだったら僕の考えの方が正しいことになる
でも、もしかしたらジムに行くことによって僕の知らない世界が広がってくるのかもしれない
僕はバカではない、この答えは筋田君の世界に飛び込んでからはっきりとさせよう!